2016年3月13日(日)/15:03試合開始/国立代々木競技場第一体育館/観客3,604人
5
3
3
3
2
0

横江怜:07分
 
 
篠崎隆樹:17分
 
オウンゴール:20分
金山友紀:24分
ボラ:33分

 
09分:シンビーニャ
10分:シンビーニャ

 
17分:北原亘
 
 

背番号
選手名
PS
先発
1
イゴール
GK
2
日根野谷建
FP
3
森谷優太
FP
4
後呂康人
FP
5
甲斐修侍
FP
6
本田真琉虎洲
FP
7
金山友紀
FP
8
滝田学
FP
9
横江怜
FP
10
ボラ
FP
12
小野寺優介
GK
 
13
中井健介
FP
16
篠崎隆樹
FP
20
原辰介
FP
 
背番号
選手名
PS
先発
2
田村研人
FP
 
3
北原亘
FP
4
酒井ラファエル良男
FP
5
星龍太
FP
9
森岡薫
FP
10
シンビーニャ
FP
11
セルジーニョ
FP
12
前鈍内マティアス
FP
14
ペドロコスタ
FP
16
中村友亮
FP
19
篠田龍馬
GK
22
矢澤大夢
GK
 

【マッチレポート】



「一発勝負のトーナメント戦では何が起こるか分からない」
 よく耳にする言葉だ。
 2016年1月、リーグ戦順位5位までのチームが参戦するプレーオフはトーナメント方式で開催された。それは一般的なトーナメントではない。そこには通常のそれとは異なるレギュレーションがあった。リーグ2位の町田は、引き分けでも次のステージへと進むことが出来るというアドバンテージを持っていたのだ。



 会場は町田のホームスタジアム町田市立総合体育館。定義上はホームゲームではないが、多くの地元サポーターが集結した会場内は「ホーム」と言っても過言ではなかった。
 フットサルの魅力を伝えたい。地元に日本一を目指すチームがあるんだと感じてもらいたい・・・。頂点を目指し、走り続けた黄色の戦士たちだったが、結果は敗戦。王者名古屋への挑戦権は早々に失い、願いは叶わなかった。



 「浦安の監督だった時に進出したプレーオフですが、最初のうちは冷静な分析が出来ませんでした。そして試合中にふと気付いたんです。これは『プレーオフ』という特別な舞台なんだ、と」
「町田にとって初のプレーオフ進出。そしてその初戦、選手たちにも同じようなことが起こったのかもしれません。特に失点した後は、焦りも手伝いミスを連発してしまいました。どうにかして普段通りの彼らのプレーが出るような努力をし続けましたが、なかなか修正は出来ませんでした。経験の重要性を再度痛感させられる大会でした」
「それでも・・。代償は大きかったですが、この舞台を経験出来たことで、クラブとして一つ前進したのではないかと思っています。歴史、伝統というものは引き継がれていくもの。どのような状況になったとしても、正しい方向へと進んでいける『チームとしての確信』が『いざ』という時にものを言います。何かを成し遂げる為には、一気に駆け上がるのは難しい。チームは段階的に強くなっていくんです」



 2016年1月5日、同月6日。チームは大きな代償の代わりに貴重な経験値を手に入れる。
 長い2カ月だった。今、黄色の戦士たちは決勝の舞台に立ち、王者名古屋と向き合っている。
「一発勝負のトーナメント戦では何が起こるか分からない」そんな言葉は不要だ。戦士たちは常に階段を上り続けている。町田は歴史のあるチームだ。だが、いつまでも「これまで」と「これから」が大切なのだ。このチームには、更に多くの経験が必要だ。そして、それが素晴らしい伝統になっていく。



 本物の経験を手に入れろ。それは日本一の称号を自分たちの身体の中に埋め込む行為だ。





 サポーターのエールが木霊する。森谷優太が、金山友紀が、滝田学が、中井健介が絶対王者名古屋に激しいプレッシャーをかけ続ける。気迫十分な立ち上がりとなった。
 気迫だけではない。プレーオフでの経験値は確実にチームを強くした。余計なものは妨げになっていない。身体が思ったように動く。



 しかし相手はすべての選手が決定的な仕事の出来る名古屋だ。一筋縄でいくはずがない。シンビーニャが華麗に、そして時には強引に突破を成功させ、何度も豪快なシュートを町田ゴールへと浴びせてくるが、町田には守護神イゴールピレスがいる。決定的な仕事は町田にも出来るのだ。

 7分、左サイドで得たコーナーキックの場面でのキッカーは滝田。名古屋ゴール前で甲斐修侍と横江怜のポジションが入れ替わる。マークを完全に外した横江が滝田からのボールに左足ボレーで合わせ、名古屋ネットの形を変えた。







【町田1−0名古屋】<7分:NO9:横江怜>

「名古屋の強さ」についての具体例を挙げだせばきりがないが、その中のひとつに「恐ろしいほどの打開力」がある。強靭な精神力と技術、決定力を持つ名古屋には、常に結果を出すスペシャリストたちが揃っている。







 先制から僅か2分、右サイドからのキックインに中央ゴール前、右足ダイレクトで合わせたシンビーニャのシュートが町田ゴールに突き刺さる。



【町田1−1名古屋】 <9分:NO10:シンビーニャ>

「同点に追いつかれたばかりの時間帯だったので、あの場面ではもっと丁寧にボールを動かすべきだったと思う」試合後記者会見での監督コメントは、チーム成長の糧となるだろう。しかし、この試合では苦い思い出となる瞬間がやってきてしまう。
 名古屋陣内センターサークル付近から右サイドの甲斐へと展開しようとしたボラのパスが奪われてしまう。フリーでゴールへと向かったシンビーニャは冷静にイゴールとの1対1を制し、逆転弾をゴールに叩き込んだ。。




【町田1−2名古屋】<10分:NO10:シンビーニャ>

 あまりにも早い逆転劇だった。だが、今の町田は強靭な精神力を持ち合わせている。たとえ名古屋が激しいプレスをかけ続けたとしても、選手たちは冷静にボールを動かしながら「攻めのタイミング」を計る為の陣形を整えていく。原辰介、森谷、中井、金山が、逆「への字」型をピッチ上で様々な形に変化させていく。これが町田の「クアトロゼロ」だ。









 17分、横江が中央ゴール前へと走る篠崎隆樹にパスを出す。そのパスは相手ディフェンスに当たり軌道が変わるが、ボールが選んだ行き先は篠崎の左足だった。彼の足元を離れたボールがゴールに吸い込まれる。悲鳴と歓声が混ざり合う中、背番号16を背負った男の右拳が強く握りしめられた。



【町田2−2名古屋】<17分:NO16:篠崎隆樹>

 喜びも束の間。すぐさま名古屋が魅せる。右サイドからシンビーニャがファーサイドへと走りこんだ北原へとパスを出す。今度はそのパスが篠崎に当たった後、北原の右腿前へと向かっていく。町田サポーターが悲鳴をあげた。



【町田2−3名古屋】<17分:NO3:北原亘>

 様々な現象に対しての分析を行う人の立ち位置を変えてみれば、どちらにとっても「不運なゴール」という言葉を選んだとしても間違いではないような得点シーンが続いた。だが、ここで絶対に間違いのない分析がある。それは、町田にとって、王者名古屋にリードされた状態で後半戦を迎えるのと、同点で折り返すのでは雲泥の差がある。レギュラーシーズンでは後半開始早々の失点で精神的な大ダメージを受けてしまった試合もあった。
 何としても同点に追いつきたい20分、今度は町田にとって幸運なゴールの瞬間がやってきた。
 ボラの右足を離れた強烈なボールが相手ディフェンスに当たり軌道を変える。よけることの出来る距離ではなかった。ボールは「くの字」に方向を変え、名古屋サイドネットへと吸い込まれていく。




【町田3−3名古屋】<20分:オウンゴール>

前半スコア【町田3−3名古屋】

「後半戦」



 名古屋相手には、やはり常に先制する展開で試合を進めたいものだ。リードすれば、戦術の選択肢が増えていく。リードされる展開が続けばその逆だ。

 24分、ドリブラー森谷優太が会場を沸かせる。自陣左サイドでボールを受けた森谷のドリブル突破が止まらない。3人をかわした後、右足でボールを放つと、最後はその瞬間を信じて走り続けた金山のもとへとボールがやってくる。左ポスト手前、金山が左足で合わせたボールが逆転弾を生んだ。まさにシーソーゲーム。今度は名古屋が町田を追う番だ。





【町田4−3名古屋】 <24分:NO7:金山友紀>

 名古屋のペースが上がる。森岡薫、酒井ラファエル良男、シンビーニャが町田ゴールへと襲い掛かる。



 苦しい時間帯が続いたが、33分、大きな大きな追加点が町田スコアボードに刻み込まれる瞬間がやってきた。町田陣内でボールを奪った森谷からのふわりとしたボールを受けたボラがゴレイロとの1対1を制す。ボラの右足からやさしく押し出されたボールは、ゆっくりと弾みながら名古屋ゴールへと向かっていく。



【町田5−3名古屋】 <33分:NO10:ボラ>

 残り時間6分、名古屋のパワープレーが始まった。スーパープレイヤー揃いの名古屋相手に6分間のパワープレー対応はとてつもない疲労を蓄積させていく。精神的にも肉体的にもだ。





 サポーターの応援がスタジアム内に響き渡る。通常の「ペスカドーラコール」ではない。会場に鳴り響いたのは歌声だ。



「いけいけ町田。俺たちの町田。どんな時でも気持ちを見せろ」



 歌は途切れることなく続いた。



「いけいけ町田。俺たちの町田。どんな時でも気持ちを見せろ」



 金山がスライディングでクリアする。横江が何度でも切り返しへの対応を繰り返し、最後は倒れこみながらボールをピッチ外へと弾き出す。

 滝田が、本田真琉虎洲がポジション修正を繰り返し、パスコースを作らせない。たとえシュートがゴールへ向かったとしても、キャプテンイゴールが絶対にゴールを許さない。



 長い長い6分間の砂時計の砂はすべて落ち切った。失点はゼロだ。第21回全日本フットサル選手権の優勝チームはペスカドーラ町田。黄色の戦士たちは、「あの悪夢」を乗り越え、紛れもない現実を手に入れた。町田が日本一のチームだ。







後半スコア【町田2−0名古屋】
合計スコア【町田5−3名古屋】

・・・・・

試合後、涙を流す選手たちがいた。日本一という称号を得た町田選手の中にだ。
 どれだけ悔しい思いをしたのか、どれほど苦しい日々を乗り越えてきたのか・・・。それはここ数カ月の話ではない。生きてきた今までの努力の成果が実った瞬間を心の底から喜んだ結果、「身体の中から出てきた何か」だったのだろう。







「誰が強いのか、けりはついた」



 たらればの話はいらない。2016年3月13日日曜日、日本一の座に輝いたのはペスカドーラ町田だ。



・・・・・

 2015/2016シーズンは終了した。しばしの休息後、また新たな戦いの舞台の幕が開く。町田が常勝チームとなる為には「その舞台を支える人々」がより多く必要だ。





 新シーズン、このチームの中に様々な新しいものが生まれてくることだろう。けれども、これまでの歴史が伝統となり、真の力を持ったチームへと進化していくのだ。浮かんでは消えていく、そんなやわなものが町田で創られていくことはない。
 町田にとって必要な言葉のひとつを書き、今シーズンのレポートを締めくくりたいと思う。

・・・・・

「勝て! ペスカドーラ町田!」


写真:橋本健(はしもとたけし)
記事:早川治(はやかわおさむ)
◆オフィスオサム:http://www.officeosamu.com/