【マッチレポート】
「前半戦」
ホームでの声援は格別だ。サポーターの後押しを受けた選手たちは、足取り軽く府中陣内からプレスをかけていく。
プレッシャーは府中の攻撃力を低下させる。攻撃権を手に入れた町田は、原辰介、中井健介が積極的にシュートを放っていく。
しかし、最初の決定機を手に入れたのは府中。町田コーナーキックからのボールを奪うと、カウンター攻撃から永島俊、上福元俊哉、そして最後は完山徹一へと繋いでのゴールを狙うが、僅かに合わず失点には至らない。
その後は両チーム譲らない展開が続く。滝田学が打てば、完山が打つ。
室田祐希がゴールへと向かえば、永島が強烈なシュートを放つ。
互いにゴールの瞬間が現実となってもおかしくない場面が続いた。その中でも決定的なシーンと言えば、森岡薫からのシュート性パスにゴール前へとフリーで森谷優太が飛び込んだシーンだろう。
相手ディフェンスの股が空く瞬間を見逃さずにパスを成功させてしまう森岡の想像力とパスセンス。そして森谷の飛込みのタイミング。「崩し方」としては、パーフェクトなシーンだった。しかし、僅かにタイミングが合わず、ボールを押し込むことが出来ない。大きな歓声は溜息へと変わった。
8分、左サイドで得たキックインの場面でのキッカーは滝田。ボールの無いところでは既に攻防が始まっていた。中央ゴール前のスペースには金山友紀が向かっている。
素早いリスタートを試みた滝田の右足をボールが離れる。ボールは金山へと向かうが、ライン間際に立つ府中選手にあたり軌道が変わった。
そのボールにいち早く反応したのは篠崎隆樹だ。ボールが向かった先は天才肌レフティーの右足。
篠崎は躊躇なく右足を振り抜く。彼の右足を離れたシュートが府中ネットを激しく揺らした。先制点はペスカドーラ町田だ。【町田1−0府中】 <8分01秒:篠崎隆樹>
失点後も府中は序盤同様決定機を作り出した。だが、ファールを積み重ねていってしまった府中は、5ファールの累積ブザーを鳴らしてしまう。
右サイドからの突破を試みた中井が倒される。6つ目のファールだ。審判は第2PK位置からの試合再開を選手たちに伝えた。
森岡薫が第2PKの位置から放ったシュートはゴールの枠を捉えることが出来なかった。しかし、審判は第2PKのやり直しを指示。会場がざわめく。「何故?」納得できない府中選手たちが審判に詰め寄る。アゲインの理由は「フリーキック位置からの距離不足」だった。
フットサルのルールでは第2PKの際、キッカーから両チームの選手が5m以上離れなければいけない。第2PKの位置はゴールから10m。そして、ペナルティーエリア最先端部の位置は6m。審判の判定は最先端位置寸前まで近づいたゴレイロの田中は、「5m以上離れていなかった」という決断を下したのだ。
再開の笛が鳴る。森岡2回目の挑戦はゴールの枠を捉えていた。だが、田中俊則がボールの軌道を変える。シュートの勢いは衰えなかったが、ゴールポストがボールを弾き返した。
前半終了間際には、町田ゴール前で得たフリーキックから渡邉知晃が豪快に右足を振り抜く。しかし、今度は町田最後の砦である小野寺優介が、ファインセーブで府中の追撃を阻んだ。
前半スコア【町田1−0府中】
「後半戦」
24分、今季より新加入となった森岡薫が「ホーム初ゴール」の瞬間を手に入れる。全日本選手権での負傷から約半年。町田でのリーグ戦初出場は第7節浜松戦からだった。
リーグ再開前、第13節を終えた時点で行ったインタビューで森岡はこう話した。質問内容は「現在までの自己採点得点について」だ。
森岡:「100満点でですか? それなら30点です。いや、0点と言ってもいいくらいですね。理由は、怪我によるコンディショニング不調です。100%の力でシュートが打てたのは第12節の名古屋戦でした。やっと痛みを感じなくなった試合です。とは言っても、まだ本気のダッシュも出来ていない状態です。これからが大切だと思っています」
「アジアNO1ピヴォ」とまで呼ばれる森岡のこなしてきた試合数は数えきれない。しかし、彼は今ままで今回のような怪我による長期離脱を経験したことはなかった。中断後のリーグ再開前にも練習での怪我によりオールスターは不参加。そして14節は欠場。溜まりに溜まった気持ちを彼は最高のパフォーマンスで表現する。
府中陣内、激しくプレスをかけてボールを奪った森岡は右サイドを走る森谷へとパス。フリーとなった森谷へとゴレイロの田中が向かう。
森谷は冷静にゴール前でフリーとなった森岡へとリターンパスを通す。無人のゴールへと流し込んだボールがスコアボードに「2」の数字を点灯させる。2016年10月22日。森岡薫、ホーム初ゴールの記念すべき瞬間だ。【町田2−0府中】 <23分26秒:森岡薫>
更に得点を積み重ねていきたい町田だったが、もちろん府中も黙ってはいない。27分、町田陣内でボールを奪った府中は、小山剛史、永島、最後はマークを振りほどき、右サイドペナルティーエリア内でフリーとなった完山が左足で合わせ1点差とする。【町田2−1府中】 <26分08秒:完山徹一>
府中選手たちが町田陣内からプレッシャーをかけてくる。しかし、経験豊富な滝田学が裏に空いたスペースへと抜けだす。町田選手たちがサポートに向かおうとしたその時、審判の笛が鳴る。カバーリングに入ったゴレイロ田中が滝田を倒してしまったからだ。
田中は2枚目のイエローカードを受け退場。府中はフィールドプレイヤーがひとり少ない状況で2分間戦わなければならなくなる。
数的優位状況での試合再開。しかし、なかなか得点を奪うことは出来ずに時間が経過していく。再開から1分43秒。通常とは違う状態での攻撃を実施出来る時間は、あと17秒しかなくなってしまった。だが、そこで結果を出すのが森岡だ。
篠崎からボールを受けた森岡は、一瞬空いた縦のスペースを見逃さない。ワンプッシュ後、右サイドから思い切りよく放ったシュートが府中ネットに突き刺さった。【町田3−1府中】 <29分08秒:森岡薫>
前半とは一転。スコアが目まぐるしく動く後半戦となった。31分、自陣内右サイドキックインの場面、横江からのボールをゴール前で受けた小野寺がまさかのコントロールミス。上福元にボールを押し込まれてしまう。【町田3−2府中】 <30分45秒:上福元俊哉>
ミスからの失点はリズムを崩してしまう。逆に府中にとっては最高のテンポアップチャンスだ。
失点から僅か36秒後、皆本晃から町田ゴール前へと鋭いパスが通る。森谷のプレッシャーを受けながらも、渡邉知晃が町田サイドネットを揺らすことに成功。
32分、試合は振り出しに戻ってしまう。【町田3−3府中】 <31分21秒:渡邉知晃>
勢いは完全に府中が手に入れた。しかし、ここで背中を押し続けるのがホームのサポーターたちだ。意気消沈する人は誰もいない。むしろ、歓声はどんどん大きくなっていく。「クレッシェンド」。音楽用語だが、まさにそんな残り時間となった。だんだん強く、時間が経つにつれ、会場のボルテージは上がっていく。
うろたえない。どのような状況になろうとも、自分たちのすべきことを信じて進めば結果はついてくる。残り時間が無くなっていく中、ピッチには経験豊富な選手たちが顔をそろえた。
本田真琉虎洲、森岡薫、滝田学、金山友紀。あらゆる修羅場をくぐってきた選手たちが府中ゴールへと向かう。
町田陣内から激しいプレッシャーをかける府中選手たち。しかし、町田には森岡がいる。府中陣内で待つアジアNO1ピヴォへとパスを通せば起点が生まれる。
激しいプレスを背中に受ける森岡。だが、森岡はボールを失わない。そして、各選手たちが上がっていく。
ボールが動き出す。森岡、滝田、金山、そしてフィニッシュは森岡だ。
残り時間1分33秒、溜まりに溜まった気持ちを体現する最後のパフォーマンスは今季初のハットトリックだった。【町田4−3府中】 <38分27秒:森岡薫>
失点直後、府中はパワープレーを開始する。1点差での残り時間は「1分33秒」。フットサルにとっては長い残り時間だ。
最後の踏ん張りどころで頼りになるは、やはり大きな声援だ。「ペースカドーラ!!」「ペースカドーラ!!」サポーターの声が木霊する。
選手たちは丁寧にボールを動かしながら時間の経過を待つ。キープでのボール保持、パス距離の長さ、パスのスピード、そして角度。ひとつひとつの時間の積み重ねが、府中選手に残された試合時間を減らしていく。
右サイドでボールを受けた横江がボールを高く蹴り上げる。選手たちは、ブザーが鳴り響くと同時に両手を高く突き上げた。
会場のいたるところで笑みがこぼれる。勝利を手に入れたのはペスカドーラ町田だ。
後半スコア【町田3−3府中】
合計スコア【町田4−3府中】
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2016年10月30日(日)、アウェイ北海道で行われた試合では敗戦を喫してしまった町田。「北海道選手たちの動きは良かった」岡山監督の試合後コメントの一部だ。
第17節の対戦相手は湘南ベルマーレ。「境川決戦」の開催地はホーム町田市立総合体育館。2016年10月31日現在、首位名古屋との勝ち点差は「11」。しかし、名古屋はまだ1試合分試合数が少ない状況だ。
選手たちはいつでも同じ言葉を言い続けなければならない。「これ以上負けるわけにはいかない」と。
勝利を手に入れることは大変難儀なことだ。その理由はひとつ。誰もが勝利を求めているからに他ならない。
さぁ、また新たな戦いの幕が上がる。心と心が繋がっている「大切な家族」が待つ「HOME」で勝利を手に入れよう。
「勝て! ペスカドーラ町田」
写真:橋本健(はしもとたけし)
記事:早川治(はやかわおさむ)
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