【マッチレポート】
「悪夢のプレーオフ」から1年。町田は新たな歴史を刻み込む。プレーオフ初戦、フウガドールすみだを相手に「7対2」で勝利を収め、セカンドラウンドへと進出した町田の対戦相手は「Fリーグ9連覇」というとてつもない記録を持つ名古屋オーシャンズ。
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このコメントを掲載したのは何回目だろう?
岡山:「歴史、伝統というものは引き継がれていくもの。どのような状況になったとしても、正しい方向へと進んでいける『チームとしての確信』が『いざ』という時にものを言います。何かを成し遂げる為には、一気に駆け上がるのは難しい。チームは段階的に強くなっていくのです。」
あれから1年、町田は今「特別な舞台での最終章へ足を踏み入れる権利」を掴むチャンスを手にいれている。
Fリーグ2016/2017ファイナルラウンド進出へ。2017年2月25日15時、黄色の戦士たちの挑戦が始まった。
「前半戦」
序盤から名古屋が決定機を量産する。星龍太からのボールを受けたシンビーニャがイゴールと1対1の場面を作り出すが、イゴールがファインセーブでゴールを許さない。
次はセルジーニョが魅せる。まずはドリブル突破からの強烈な左足シュート。次にコーナーキックから巧みなオフザボールの動きでフリーとなり、酒井ラファエル良男のボールに中央で合わせるが結果には至らない。
今度は猛攻を凌いだ町田が決定機を作り出す。室田祐希のドリブル突破を皮切りに、先ずは滝田学の強烈な左足シュートがゴールへと向かう。
中央ミドルレンジから森岡薫の左足、右サイドから横江怜の右足、中央ゴール前から中井健介、更には滝田学の左足、本田真琉虎洲のシュートで先制点のチャンスを作り出すものの、ゴレイロ篠田龍馬のファインセーブやゴールポスト、クロスバーに行く手を阻まれ得点を奪うことが出来ない。
互いに全く譲らない展開で試合が進む。町田が決定機を作った後には名古屋が作る。その繰り返しだ。
ゴール前で与えてしまったフリーキックからシンビーニャのシュート、ドリブル突破からまたもシンビーニャの右足と名古屋が決定機を作り出すが、原辰介の身体を張ったディフェンス、守護神イゴールのファインセーブでゴールを死守し続ける。
どちらが先制点を手に入れるのか? 先制点は大きなポイントになりそうだ。緊迫した試合展開の中、今試合初ゴールをスコアボードに刻み込んだのは森岡薫だった。
名古屋オーシャンズ栄光の9連覇の原動力となった男が古巣で背負っていた背番号は「9」。2015/2016シーズンを優勝という輝かしい結末で終えた森岡がシーズン終了後に名古屋から受けた宣告は「解雇」。
フットサル界の2015/2016シーズンが終了した後、日本最強のストライカーが身に纏うことを決めたユニフォームのカラーはイエロー。「黄色の戦士たち」ペスカドーラ町田だ。
ペスカドーラ町田の10番が10年目を迎えたFリーグでのプレーオフで価千金の先制点を挙げる。大歓声と共に墨田区総合体育館で黄色のタオルがぐるぐると回り続けた。
【名古屋0−1町田】 <14分39秒:森岡薫>
貴重な先制点を奪うことに成功した町田が勢いを手に入れるかと思われたが、ここからまたも名古屋の猛攻が始まってしまう。大きな理由のひとつは、積み重ねていってしまった「5ファール」という規制内でのディフェンスだろう。
しかし、町田は1点も譲らない。滝田学、横江怜、滝田、滝田、室田祐希。様々なピンチを迎えるが、集中し、身体を張ったディフェンスでシュートをゴールへと向かわせずに前半戦を無失点で終了する。
前半スコア【名古屋0−1町田】
「後半戦」
後半開始から僅か1分、セルジーニョのシュートをセーブしたイゴールが魅せる。一度は左サイドからの展開を考えたイゴールだったが、右サイドを駆け上がる金山友紀の動きを確認するや否や、矢のようなスローイングを名古屋ゴール前へとフィードする。
金山友紀は経験豊富な選手だ。イゴールがボールをキャッチした瞬間、右サイドゴール前に空いているスペースを瞬時に見つけ、自身のギアを突然トップギアに入れる。ローギアからトップへではない。ゼロからトップだ。情報収集能力、判断力、決断力、そしてスピード、すべてが揃った先に完璧なピンポイントパスが向かってくる。
人の価値観は人それぞれだ。答えなんてない。だからこそ、私はこのシーンにあえてこんな言葉を使ってみたい。これは「芸術の域だ」と。
【名古屋0−2町田】 <21分22秒:金山友紀>
フットサルでの2点差は全くセーフティーラインではない。しかも、同点で試合が終了すればファイナルへの進出権を得るのは名古屋だ。
一進一退の攻防が続く中、決定的なピンチを迎えてしまう町田だったが、イゴールがファインセーブで王者の前に立ちはだかる。
砂時計の砂が落ちていく。無得点のまま、残された時間が無くなっていく名古屋が選んだ選択肢はパワープレー開始。
とにかく、追撃のきっかけとなる「1点」が欲しい名古屋だったが、ゴールを奪ったのは町田。
シンビーニャの右足を離れたボールをイゴールがキャッチする。名古屋ゴール前には誰もいない。パントキックでゴールを狙うイゴールの前にラファエル酒井がファウル覚悟で飛び込んでくる。
しかし、酒井の足はボールの軌道上に入ることは出来なかった。イゴールの右足から放たれたシュートが名古屋ゴールへと吸い込まれていく。
【名古屋0−3町田】 <37分09秒:ピレスイゴール>
残り試合時間2分51秒。名古屋ボールでのキックオフ。5人の名古屋選手たちが、まるで短距離走でも始めるかのようにセンターラインに並んだ。
フットサルという競技の面白さであり、怖さでもあるコートの大きさ。25m×42mという距離内では、あらゆる可能性が用意される。2分あれば、3得点という結果を手に入れることは十分出来る。あることがきっかけで2分で3点失点した。フットサルとの関わりの時間が長い人であればあるほど、そういった話を何度も聞いたことがあるはずだ。
プレーイングタイム40分の終了を告げるブザーが鳴り響く。町田はその後、王者を相手に1得点も与えることなく勝利の瞬間を迎えた。
気丈な男、森岡薫が両手で顔を隠し、ピッチに涙を落とす。こんなシーンを見たことがあるフットサルファンはいるのだろうか?
名古屋の10連覇を阻止し、ファイナルラウンドへの進出を決めたチームはペスカドーラ町田だ。
後半スコア【名古屋0−2町田】
合計スコア【名古屋0−3町田】
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2017年3月3日(金)会場岸和田市総合体育館。Fリーグの歴史を変える戦いの始まりを告げるホイッスルが鳴るのは午後7時。
本当のファイナル進出へ。プレーオフファイナルラウンド第1戦。町田が手に入れなければいけないものは勝利のみ。
「勝て! ペスカドーラ町田」
写真:橋本健(はしもとたけし)
記事:早川治(はやかわおさむ)
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