【マッチレポート】
アウェイでの4連戦を終え、黄色の戦士たちはホーム町田へと戻ってきた。今シーズン初の連敗を喫してしまったアウェイ戦ではあったが、戦績としては2勝2敗と勝率は5割。最悪の結果ではない。
ホームの雰囲気は格別だ。敵地で記念すべき200試合出場を決めたNO10ボラとNO7金山友紀の表彰式が改めて行われると、ピッチに立つ二人の頭上からは、暖かな拍手の雨が降り注いだ。
心からそのチームを愛し、その大地で成長を続けている人々が集まり、戦士たちを応援してくれる場所、それがホームだ。若手はいつしかベテランとなり、まだ見ぬ人が、この黄色のユニフォームを着てピッチに立つ日がやってくる。走り続ける人がいる限り、その循環は繰り返されていく。
今季2回目の対戦となるバルドラール浦安戦。5月9日、アウェイ浦安にて行われた前回の対戦では1対2で惜敗している。
現日本代表、そして元日本代表、スター選手が揃う真紅のユニフォームに身を包んだ黄金の昇り竜が、彼らの前に立ちはだかる。
勝利を目指し走れ。定刻16時00分、試合開始を告げるホイッスルが鳴り響いた。
開始早々町田がチャンスを作る。NO8滝田学とのワンツーで突破したNO13中井健介が右サイドを突破すると、ゴール前中央へと走りこんだNO20原辰介へとパスを入れるが、僅かに合わず得点には至らない。
攻守の切り替えが速い、フットサルらしい試合展開が幾度も披露されるゲームとなった。
日本代表としても活躍する浦安NO8加藤竜馬がドリブル突破から強烈なシュートを放てば、NO1イゴールがそれを弾き返す。すると、今度はそのボールを手に入れたNO9横江怜が、カウンターから右サイドを駆け上がったNO16篠崎隆樹へと繋ぎ、浦安ゴールへと向かう。
町田は積極的に相手陣内からプレッシャーをかけていくが、NO9星翔太、NO19高橋健介、NO5小宮山友祐、NO6荒牧太郎等、フットサルをよく知る浦安選手たちが、そのプレスの隙間を探し出し、じわりじわりと町田陣内へ近づいて来る。
しかし、常にそういった展開になる訳ではない。回避される場面もあるが、ミスを誘う場面も多々あった。前半は町田が優勢に試合を進めたと捉えても良いだろう。
今試合でもイゴールを加えたパワープレーは重要な攻撃のオプションとなった。バリエーションは大きく分けて2種類だ。ひとつは、相手ディフェンスを引き出し、数的優位状況を作り出した瞬間のパス。パターン「1」とでも言おう。そしてもうひとつは、相手が下がれば、自身のシュートでゴールを狙うパターン「2」だ。
イゴールのシュートで得たコーナーキックから決定機がやって来る。滝田がファーサイドにフィードしたボールを篠崎がボレーで合わせる。そのボールはクリアされてしまうが、今度は横江がそのこぼれ球をゴレイロ前にポジションを取った金山へとパス。
絶妙のタッチで金山が角度を変え、得点を狙うが、枠を捉えることが出来ない。
町田の攻撃は続く。しかしネットを揺らすには至らない。
浦安陣内右サイドで手に入れたキックインの場面から、滝田が強烈なシュートを放つが、日本代表ゴレイロのNO12藤原潤がファインセーブでゴールを許さない。
浦安も黙ってはいない。左サイドを突破したNO4深津孝祐が、中央へとフリーで走り込んだNO16三木一将へとパスを入れるが、僅かに合わず難を逃れる。
前回の対戦で先制点を奪ったのは浦安だった。今節では是が非でも先制点がほしい町田だったが、この試合でも先に得点を奪ったのは浦安。
パラレラで右サイドを突破した荒牧が豪快に右足を振り抜き、町田ネットに強烈なシュートを突き刺した。
【町田0−1浦安】<16分57秒:荒牧太郎>
前半スコア【町田0−1浦安】
「後半戦」
1点ビハインドで迎えた後半戦、選手のモチベーションを上げる重要な要素は同点弾だ。早い時間に同点に追いつきたい町田は、中央から篠崎が積極的にシュートを放つ。
浦安が前線からプレスをかけてくれば、裏のスペースへとスピードスター中井が飛び出す。滝田からのボールを受けた中井がゴレイロ藤原と1対1の場面を作り出すが、ファインセーブに阻まれてしまう。
チャンスは作り出せていたが、結果が出ずに時間が経過していく中、イゴールを加えたパワープレーから待望の瞬間がやって来た。ゴール奪取を成功させたパワープレー攻撃バリエーションのパターンは「1」。
イゴールが浦安選手を引き出すことに成功すると、右サイドで一瞬フリーとなったNO3森谷優太へとパスを出す。
マークがずれ、得点を取る為の空間が出来上がる。森谷は次に空いたスペースを見逃さなかった。彼が判断から実行までに要した合計時間は、約0コンマ8秒。
その空間を見つけたのは森谷だけではない。NO14服部慎悟がゴール前にぽっかりと空いたスペースへと走り込んだ次の瞬間、会場に大きな歓声が沸き起こった。
【町田1−1浦安】<29分05秒:服部慎悟>
Fリーグ初出場を果たした今シーズン、初得点となる服部慎悟の記念すべき通算ゴール数「1」がスコアボードに刻み込まれた。
会場のボルテージが上がる。ホームの大声援を受け、勢いに乗りたい町田だったが、次の決定機を作り出したのは浦安。
NO7中島孝が町田ゴール前をワンツーで突破する。中島の右足を離れたボールが町田ゴールへと向かい、会場に悲鳴が響き渡る。守護神イゴールの手は届かない。
しかし、町田ゴールポストがゴールを許さない。天を仰ぎ、顔の前で両手を合わせる中島。安堵の溜め息をつき、ほっと胸を撫で下ろすサポーター。一進一退の攻防がシナリオのテンポを上げていく。
テンポがどんどん上がっていく。高橋が右サイドをパラレラの動きで突破し、強烈なシュートを放てば、今度は左サイドを突破した横江が、左足でゴールを狙う。
次は町田が決定機を作り出す番だ。華麗な足技で右サイドを突破した篠崎が、ゴレイロと1対1の場面を作り出し、最後は右足でシュートを放つ。今度は日本代表ゴレイロ藤原の手が届かない。
サポーターが立ち上がり、両手を突き上げる。だが、ボールはゴール左へと逸れていってしまう。歓声が溜め息に変わる。突き上げられた両手は行き場を無くし、頭の後ろで組み合わされた。
決定機が続く。右サイドを突破した中井が放った強烈なシュートがゴールへと向かうが、このシーンでは浦安ポストがゴールを許さない。
残り時間が無い。38分55秒、タイムアウトを取った浦安は、中島をゴレイロにパワープレーを開始。追加点を奪いに来るが、シュートを打つシーンは来ないまま、試合終了のブザーが鳴り響いた。
後半スコア【町田1−0浦安】
合計スコア【町田1−1浦安】
・・・・・
残り時間1分05秒からのパワープレー。浦安はボールを動かし、得点を奪うチャンスを探し続けた。
試合の見方は人それぞれの自由だ。浦安は、パワープレーを敢行したにも関わらず、シュートを打つこともなく、町田に試合終了の瞬間を迎えさせてしまったと考えてしまう人もいるだろう。もっと厳しい言葉を用意するのであれば、「最後の最後に興ざめだ」とまで言ってしまう人がいるかもしれない。
しかし、本質はそうだろうか? あの1分05秒の中には、何が凝縮されていたのだろう?
ひとつのシーンについて書きたいと思う。左サイドでボールを動かし、0コンマの中で判断を行っている小宮山が、リビルドの為にボールを後ろに下げた瞬間、前方にいた高橋は大きなジェスチャーで彼に訴えかけている。両手を自分の方へと引き寄せ、「今ここにボールを出すべきだった」と。
理由は、「3対2」の数的優位状況が出来ていたからだ。そのシーンでは、右サイドにいた中島も右手を大きく動かし、「そのスペース」についての指示を出している。
浦安選手たちは常にゴールを狙い続けていた。しかし、パワープレー返しの上手い町田選手を相手に「強引にシュートを打ちにいく」ということは、ある意味賭けとなる。
無理にでもシュートを打った時の「ひとつの未来」について考えてみよう。シュートがゴールへと向かう。Fリーグナンバーワン守護神イゴールがボールをキャッチし、巧みなパントキックでパワープレー返しを決める。結果は敗戦。
あらゆる可能性を考え、選手たちはピッチ上でボールを動かし続けている。その駆け引きのレベルの高さは、あの1分05秒の中で何度も観ることが出来たと思う。
Fリーグ、そして日本のフットサル界のレベルは年々向上している。どのカテゴリーにおいても、選手たちは日々努力を続け、更なるレベルアップを目指している。いつの日か「日本が世界一」となる日を目指して。
勝ち点1を分け合うという結果は残念ではあった。だが、「結果だけがすべてではない」。そんな言葉が当てはまる好ゲームだったと言えるのではないだろうか?
写真:橋本健(はしもとたけし)
記事:早川治(はやかわおさむ)
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